コラム

hummingbird No.44 孝

朝の空気の冷たさは大寒の厳しさを感じつつも、木々の芽が膨らみ始める様子に目を向けると、吐く息の白さも途端に和らぐようです。日中降り注ぐ陽の温もりも春分に近づいているのを実感します。
年明けからのひと月、どのように過ごされたでしょうか。

明治神宮のおみくじ【大御心おおみごころ】をご存知ですか?一般的な「大吉・凶」といった運勢ではなく、明治天皇や昭憲皇太后の和歌を通して生き方の指針を示してくれるものです。
私がいただいた言葉は「孝」。
『たらちねの親につかへてまめなるが  ひとのまことの始なりけり』
~心こまやかに父母にお仕えすることが、人としての誠実さの基本であるはずです。~
“親と子の敬愛の情は、生まれながらの自然のものです。これが人の誠の始まりで、広く社会生活を営む基本となります。”と記されていました。

「孝」という字は、上に「老」(年長者・先人)、下に「子」(若者・次世代)、が重なってできています。
そこには「老が子を導き、子が老を支え世代がつながる」という双方向の関係性が込められています。
・自分が今あるのは誰かの支えや歴史の上に成り立っていること
・そのつながりを大切にし、次へと受け渡していくこと
こうした「関係の継承」が孝の核心にあります。
また、儒教では親子関係に限らず、人と人がお互いを尊重し、調和を保つための基本姿勢ともされています。

最近読んだ本の中で「ジェロントロジー」に触れる機会がありました。
ジェロントロジー(Gerontology)とは、人の加齢や社会の高齢化を科学的に研究し、「より良く長生きする」ための知見を提供する学問です。高齢者の生活の質(QOL)向上や活躍の場づくりにも貢献しています。

文化としての「孝」と、科学としてのジェロントロジー。
一見まったく異なるようでどちらも“老いを理解し、敬い、つなぐ”という同じ未来を指しているように思えます。
老いを理解すること(ジェロントロジー)と、老いを敬うこと(孝)、この二つが重なると世代が循環し互いを支え合いながら続いていく社会の姿が見えてきます。

日常生活にはAIが当たり前のように入り込み、便利さに驚く一方で、その一歩手前の不便さに戸惑う場面もあります。
先日、子どもの病院を予約しようとした際も、アプリの取得から登録、会計の事前決済の設定まで、最初の手間に思わず「もういいや」となりそうでした。薬局でも処方箋をQRコードで送る作業が必要で、便利の一歩手前がやけに遠く感じられました。
ふと横を見ると、時間をかけて説明を聞くお年寄りと、根気よく寄り添う係の方の姿。
「係の人がいない時、一人の時は大丈夫だろうか」と、余計なお世話心が揺れながら薬局を後にしました。
日本は世界でも最も高齢化が進んだ国と言われています。
その中で、高齢者向けのデジタル支援や生活支援は日々進化し、特に移動が難しい地域では出張型の講座など、さまざまな工夫が広がっています。
互いに支え合う社会をつくるには、制度や仕組みの改善ももちろん大切です。
けれど同時に、私たち一人ひとりが、身近なところから温かな心で接する“余白”を持つことも、同じくらい大切なのだと感じた新年でした。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。