コラム

hummingbird No.38 大切なものを守るために

この夏も、記録的な猛暑が続き、「気候変動」という言葉の重みを感じる日々ですが、全国の観光地では“人の多さ”が話題になっています。コロナ禍の反動もあり、どこへ行ってもにぎわいが戻ってきたのはうれしいことですが、一方で「人が多すぎて本来の良さが感じにくい」「自然環境への負担が気になる」といった声も聞こえてきます。いわゆる“オーバーツーリズム”の問題も深刻化しています。自然や文化を守りながら観光を楽しむことができるよう、地域ぐるみでルールを整備すること、旅をする側の意識の中にも地域や環境に配慮があることが求められています。

そんな中、私は夏休みに入り、北海道の離島、利尻・礼文島を訪れました。北海道の暑さが取り上げられる中でも涼やかで爽やかな風と穏やかな時間が流れ、透き通った海と緑豊かな山、強風の中でも可憐に咲く高山植物、静かな港町、ゆったりとした景色の中で、忙しない日常と喧噪を離れ大自然の中に身を置くことの重要性と、そんな環境があることへの感謝とよろこびに浸ってきました。
と言っても、地元の方々との会話からは自然環境の変化を肌で感じることもありました。
温暖化の影響かウニや昆布の採れ方が安定しない、メノウが拾えることで有名なメノウ浜では打ち上げられるメノウの大きさがとても小さくなってしまったなど、海や地形が少しずつその姿を変えていることで暮らしに大きな影響があるだろうことを痛感しました。

それでも、島はとてもやさしく、清潔な印象で、フェリー港には分別が徹底されたごみ箱が整備され、観光客にもわかりやすく工夫されていました。人口と面積の割にごみステーションの数が多いことにも驚きましたが、それ以上に「地元の方々が環境に対して丁寧に向き合っている」ことが印象に残りました。高齢化や人口減少といった課題を抱えながらも、島外からの人を受け入れるために、細やかな努力が積み重ねられていることも知りました。住民への支援もとても手厚いのです。
こうした姿は、SDGsが掲げる複数のゴールとつながっています。
11:住み続けられるまちづくりを
13:気候変動に具体的な対策を
14:海の豊かさを守ろう

利尻は火力発電1か所、小規模ながら水力発電2か所、風力発電1か所、利尻高校の両面太陽電池システムで島の電力がまかなわれています。
風力発電のタービンが一機ありましたが羽が故障しているようでその時は停止していました、風が強すぎるようです。礼文は火力発電所が一か所とIPP(卸電気事業者)を導入。
利尻島は本土の電力系統とは独立した自立型電力供給によって、2018年に発生した道内全域の大規模停電の影響は受けなかったようです。小水力は出力規模としては小さいけれど天候に左右されにくく、自然環境への影響も極めて少ない、地元の川や沢を使っているので地元資源を活かすという意味では象徴的な存在と言えます。まさに持続可能、静かに力強く貢献しています。
風・太陽・水が全てそろっている離島はなかなか珍しいですよね。
離島における風力発電の難しさは様々あると思いますが、あのダイナミックな自然の恵みが活かせるようになったら…と希望も大きいです。

利尻は火山の噴火によって、礼文は土地の隆起のよってできた島。
ある角度から見ると雄雄しく、また別の角度からは母の様なあたたかみのある利尻山、島全体が包み込むような柔らかい空気感の礼文。どちらも吹く風は普通に立っていることが困難なほどの力強さで、こちらがしっかりと重心を下に意識しなければいられないので自然と足の裏から土の中へと根を下ろしていくような感覚になり、自然と共に在ることの厳しさも教えてくれる島です。その風の強さから空模様はコロコロと急な変化が多く、ついさっきまで見えていた山の姿はすっかり隠される、その流れの速さも海風もまた心地よい。
飛行機もフェリーも満席でしたが、宿泊施設や無料のキャンプ場が豊富なので、一切ゴミゴミした混雑を感じることなくじっくりと観光ができる。
一日で一周出来てしまう面積でありながら豊かな植物に触れることを楽しめば一日では足りないほど魅力溢れる島。島内に無料Wi-Fiが設置されているのでその辺の心配はご無用ですし、もちろんデジタルデトックスしたい人にも、是非一度は訪れていただきたい素敵な離島です。
旅にはマイごみ袋持参で!