和紙の里として知られる東秩父村。細川和紙の歴史は1300年と言われ、かつて安戸城があった「宿」(しゅく)では月に6度の市が立ったと語り継がれています。
都幾川最大の支流で一級河川の槻川(つきがわ)沿いに和紙作りを営む集落が続いていました。「道の駅和紙の里ひがしちちぶ」では当地の細川和紙の歴史を紹介する資料や当時を再現する建物、また紙すきの体験施設も用意されて、多くの児童、生徒や観光客が訪れています。
本工事はその下流2kmほどにある「天神社」に接しており、『新編武蔵風土記稿』には「宿内の鎮守なり、社地山足(さんそく)によりて磐岩(いわむら)を左右後ろの三方共に鑽鑿(さんさく)して宮造りせり」とあるように、まさに山に抱かれた社です。また、境内にある「御由緒」には「天文5年(1536)正月に安戸城主の上田左衛門大夫安吉が、菅原道真公を勧請」とその歴史が記されています。
本工事で最重要課題は工事範囲に接している天神社を保護しながらの施工となることでした。神社裏手を掘削して法面整形して新たにコンクリートブロックを積む作業(擁壁工)はわずかな土砂が跳ね上がっても本殿に接触する可能性があり、神社を保護板等で囲いながら慎重な作業が必要です。また、コンクリートブロックを積むための生コンクリートの搬入路を別方向に設けなければならず、施工の進捗をいかに図るかは仕様書に表れない施工計画作成の大きな焦点でした。
法面安定工事は、削孔、アンカー挿入(2m)、グラウト注入、受圧板設置の手順で行われました。今回採用された受圧板はFRP性(ガラス繊維などの繊維をプラスチックの中に入れて強度を高めた複合材料)で、鉄の5.4に対して15.0の比強度(比重で比べた強度)を持つ、軽くて強い素材です。また、素材は「軽く作業効率が良い」、「通水性が高く全面緑化が可能」等の特長を持っています。
工事名:社資(急傾斜地)工事(宿法面工)
工事場所:秩父郡東秩父村安戸地内
工事期間:2021年3月-2021年12月